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『羽生蛇村が幻想郷入り』シリーズ制作者による 舞台裏とか新着・裏話を載せていく―――
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第一話
博麗霊夢/霧雨魔理沙/八雲紫

幻想郷東端/博麗神社 霧の湖/ほとり付近

前日/21時49分07秒 ~ 22時36分48秒

 

 


 
 

2003年8月3日未明

××県 三隅郡から、一つの村が消えた。

 




 

 

―――その夜は、珍しく霧深かった。

靄ならよくある話だが、
三歩先が見えない程の霧は見たことが無い。

昼間は快晴だったと思ったのだが…。


「で、神社に薬があると思う?」
目の前の珍客に問う。

「無いな。うん…無い。」
見慣れた顔(今は見えないが)は答えた。
「アリスがあんまり必死だったから、
 こっちまで取り乱していたみたいだな…」

「解ったなら、まあいいんだけど」
親友が倒れ 看病を迫られたとしても、
むしろ魔理沙にしては焦りすぎではないか?
「どうする心算なのよ?」

「一旦、私の家に戻ってみる」
ようやく落ち着きを取り戻してきたらしい。
「お茶の一杯でも飲ませて、
 今晩は休んでもらうしかないだろうし。」

心配する程でも無さそうなので、
「そう…」とだけ返した後は
一切の興味を失ってしまった。もう眠い。


「しっかし…随分ひどい霧だな。
 三歩先に居る霊夢の顔すら見えないぜ!」
霞んで見えないその顔が、
二カっと笑ったのが想像できるような声色。

口では"危ない"といいつつも、
どうせこの鉄砲玉は 箒でかっ飛ばすのだろう。
「木とか鳥とか…ぶつかって怪我しないでよ?」
無駄とは解っているが、一応注意しておくことにした。


  * * * * *


目の前の巫女…
本当に私を心配して あんな事を言ったのか?
「そんな目で言われてもなぁ…」

「何よソレ?」

そう返してくるのはいいが、やはり上の空だ…

この、暢気というか無関心っぷりというか、
どこか抜けている霊夢に、結局気を置かない自分を思うと
なんだかどうでも良くなってきてしまった。

その上、紫がスキマからずっと
ニヤニヤしているのを見てしまっているから、
最早口からは ため息しか出てこない。

長居しても、もう仕方ないだろう。
「じゃ、そろそろ行くぜ。」とだけ言い残すと、
箒にまたがり 霧に埋もれた空へ飛び出した。


しかし…紫は何がしたかったのだろうか。


  * * * * *


魔理沙は案の定、霧の空へ飛び出して行ってしまった。
まるで人の話を聞いてない…
あの父親から、どうすればこの娘が出てくるのやら。


「あらやだ。人のこと 言えるのかしら?」

突然の声。
気付かなかった。いつの間に後ろへ…

「そんなに驚く事も無いじゃない?」

…と、振り向いた先には 見慣れた妖怪。
スキマから半身だけを乗り出して、
気だるそうな瞳は私の考えを見透かしていた。

「誰なのかしらねぇ?」

何を指しているか?
言うまでもなく、この濃霧のことだ。

「さあ?」
「相変わらず可愛くないわぁ…
 一応"異変"かもしれないのに。」

そこは博麗の悲しい性よ、
『異変』と聞いて つい目の色を変えてしまった。

「天気としての霧じゃなくて、
 どこからか沸いてきてる、ってことなの?」
「勘が良いのは褒めてあげる」

冗談じゃない。
紅魔異変の兼価版だとでも言うのか?

「せっかくだから、
 藍と橙に発生源を探させてるの。
 昔、外来人からもらった…無線があるでしょう?
 私達は神社で室内待機。どう?」
「幻想郷も変わったわね…その話、乗った。」
「手土産に煎餅を持ってきてあげたわ。
 たまにはゆっくりお話しようじゃない。」

随分美味しい話じゃないか。

「いやに事が巧く進むわね?」
「この異変はでっかくなるわぁ…!
 それまでお話しましょうよ。ねえ?」

年をとると、こうも…


そこまで考えてみたが、気が付けば、
煎餅から香る醤油の誘惑に負けていたのだった。

 

 


―――半刻後、紫の無線が動く。

「その声は…橙かしら」
「ハイ、橙です、紫様!
 その…」
「落ち着いてから、もう一度話しなさい」

そこまで言うや否や、紫は無線を切断してしまった。

異変下において、冷静さを欠くことは
時に死やそれ以上の物へ直結することもあるから、
妥当と言えば妥当な対応かもしれない。

「見つけたみたいね。」
「案外早かったじゃない。
 幻想郷中を飛び回ってたんでしょ?」
「妖獣をなめられては困るわ。」


と、ここで再び無線が。

「その、今気付いたんですけど…」
随分弱弱しい声が 漏れ聞こえてくる。

 

湖が、無いんです

 

  * * * * *



湖が、消えていた。

ほとりだった辺りに立っているはずなのだが、
目の前には崖がそびえ立ち、
その上には見慣れぬ木々が立ち並んでいるようだ。

「いきなり生えてきた…とは思えないわね」
「どうやったらそんな発想に行き着くの?」

崖とは言えど 大した高さではないし、
飛べる私達にとっては さしたる問題ではない。

しかし、何故こんな物がここにあるのか?
この先に、何があるのだろうか?

この疑問を解決しないことには始まらない…。


「ねぇ霊夢、あなたが見てきてよ」
「嫌よ。あなたがスキマを使って
 覗き見してくれば済む話じゃない!」
「異変は人間が解決しなきゃダメなの!
 ほら、行った行った!
 ちゃんと無線で話は聴いてあげるわよ!」
「仕方ないなぁ…戻ったら覚えてなさい。」


結局、崖を飛び越えて 森へ踏み込む霊夢。

私は小指でアンテナを弾きながら、
何も考えずに彼女の背中を見送った。

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